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ムーンショットとしてのグラフフェッド

世界人口が100億人に迫る2050年には食料不足が深刻化するとの懸念が強まる中、グラフフェッド酪農がこの課題解決のためのカギを握っているとして注目されています。


ムーンショットは人類の月面着陸に匹敵する研究

2050年の食料問題に関しては特に、ヒトの生命にとって重要なタンパク質の不足が危惧されています。この状況を日本政府も重要な課題と認識しており、2018年度に創設された「ムーンショット型研究開発制度」の中で、実質的にタンパク質の確保を目指す意欲的な研究を支援し始めました。


ちなみに、「ムーンショット」という呼び名は、米国のジョン・F・ケネディ大統領(当時)が1961年5月、「10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と、当時としては途方もない計画を打ち出し、それを見事に達成したこと(1969年7月にアポロ11号により人類の月往還が成し遂げられた)に由来しています。


このエピソードを引き合いに、「ムーンショット」は今やテクノロジー分野での巨大な飛躍を目指す革新的なプロジェクト、あるいは野心的で崇高な計画などを表す概念になっています。特に、実現されれば人類全体にとって大きなメリットが得られるプロジェクトを示します。


食糧問題のムーンショット候補

内閣府はムーンショット型研究開発制度を「我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発」と定義した上で、9つのムーンショット目標を設定。その中の目標5が「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」であり、先述の食料問題を解決する研究を求めています。

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/target.html


実際に内閣府が目標5の達成に向けて採択した研究の中には、コオロギなどの昆虫食やシロアリを利用した食品製造など、まさにムーンショットともいうべき野心的なプロジェクトがみられます。現時点ではまだ、必須アミノ酸(主に食物として体内に取り入れる必要があるタンパク質の素)が十分ではないなどの技術的な問題に加えて、消費者の意識や文化的な問題も残るため、長期的な視野で開発が進められています。

https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/MS_Attachment_jp_20200918.pdf


メタン減少はタンパク質の増産につながる

一方、酪農についても、最大の課題とされる「牛が出すげっぷに含まれるメタンガス」に対して、2050年までに その80 %削減を達するべく研究が進んでいます。地球温暖化への危機意識が高まる中、牛由来のメタンガス(二酸化炭素の25倍の温暖化効果を持つ)を大幅に削減するため、牛の胃の中でメタンを生成する微生物の働きをコントロールしようとする取り組みです。


実は、牛がメタン排出を減らせば、その見返りとしてメタンとともに失われるエネルギーが体内に残ることにより、牛の生育が良くなり肉やミルクの増加につながることが分かっています。すなわち、牛由来のメタンを減らす技術は、より少ない飼料で牛が育つという経済的なメリットをもたらします。その結果、酪農の生産性が向上して、将来のタンパク質不足問題の解決にも寄与することになります。


グラスフェッドが最有力

そもそも、牛を放牧して牧草を餌として与えるグラフフェッド酪農では、人間が食ベられない草を牛が食べて育つため、人間と牛との間で食料(穀物)の奪い合いにはなりません。それどころか、牛は人間が食べられない草を原料にしてミルクなどの形でタンパク質を人間に提供してくれます。


また、牛が育つ牧場の草や山林はCO2を吸収する働きがあります。したがって、過去8千年の長くにわたり続けられてきたグラスフェッド酪農は、そもそも環境負荷が低い存在でした。それに加えて、いま進行している研究によって牛の出すメタンが減少し、同時により少ない餌で牛が育つ技術が確立できれば、2050年のタンパク質不足の問題が解決に向けて大きく前進することになります。


近い将来のたんぱく質不足問題の解決に向けて、様々なムーンショット・プロジェクトが進む中で、長い伝統と革新的な技術とが融合したグラスフェッド酪農は、この課題解決の最有力候補と言えるでしょう。













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