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グラスフェッドバターを巡る情勢

海外産に頼りがちなグラスフェドバターですが、国内産も少しずつ存在感を示し始めています。特に、日本の牧場で伝統的な方式により作られたバターは、美味しさや新鮮さ、また高い栄養価を保ちながら安定的な供給が期待されます。


 

きっかけは一冊の書籍

「グラスフェッド」という言葉が広く知られるようになったきっかけは、2015年9月に日本で発行された「シリコンバレー式自分を変える最強の食事」(デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳、ダイヤモンド社発行)の中で、「最高においしくて、パフォーマンスを最大化」する「完全無欠コーヒー」にグラスフェッドバターを使うことが紹介されたことです。ちなみに、グラスフェッドバターは、放牧と牧草で育てた牛のミルク(グラスフェッドミルク)を原料にして作られたバターです。


この中で著者は、コーヒーにグラスフェッドバターなどを加えたコーヒーを朝飲めば、「脳を復活させ、食物への渇望から解放」させてくれると説明。これを受けて、グラスフェッドバターを使った「バターコーヒー」は健康的で、しかもダイエットにも有効との見方が若いビジネスパーソンを中心に広がり始めました。


この本の発行から7年が過ぎようとしていますが、バターコーヒーに対する人気は衰えていません。実際、大手百貨店のバター売り場に陳列されているグラスフェッドバターの種類が年々増加し、またバターコーヒーを提供するカフェも増えている状況です。


グラスフェッドバターの課題

そうした中、グラスフェッドバターについては、特にその流通に関して課題があることも事実です。一つは、その供給量が限られていること、もう一つは一般のバターに比べて高価になってしまうことです。


前者の供給については、そもそも日本の多くの農家では、放牧に必要とされる十分な面積の草地(理想的には、牛1頭当たり1ha=100m×100m)を確保することが難しいという事情があります。


また、農家から乳製品メーカーなどが生乳を買い取る価格が一律であるため、農家が売り上げを増やそうとすると(販売する乳量を増やそうとすると)、放牧せずに牛舎で多くの牛を飼い、穀物飼料で育てる方が有利です。逆に言えば、放牧と牧草で育てる酪農は極めてマイナーな存在です。その結果として、国内産のグラスフェッドミルクは希少な存在となり、そのミルクで作られるグラスフェッドバターの供給量が限られることになります。


後者の価格の問題に関しても、グラスフェッドバターは製造に手間と時間がかかるため、一般のバターに比べて高価にならざるを得ません。


バターを作る工程を見ると、牛から搾ったばかりの生乳を遠心分離させてクリームと脱脂乳に分け、このクリームを攪拌(チャーニング)してバターを作ります。この工程を通じて、生乳の10分の1程度の量がバターとして残ります。言い換えると、バター100グラムを作るのに生乳が1キログラム必要ですので、バター作りには少なくともミルクの10倍の原材料コストがかかります。


特に、グラスフェッドミルクが希少な存在であるだけに、大規模工場で作る一般のバターのような、工業化された大量生産型のバター製法を用いることができません。グラスフェッドバターの多くが、昔ながらのバターチャーン製法で作られます。もちろん、バターの味は伝統的なバターチャーン製法が一番ですが、手間と時間がかかることも確か。これがバターのコストに乗ってきますので、グラスフェッドバターの価格は高価にならざるを得ません。


安定供給の国内産に脚光

このような国内酪農の状況を背景に、百貨店などで売られるグラスフェッドバターの多くがヨーロッパ(フランスなど)やニュージーランドなどの外国産であり、国内産が限られているのが現状です。


伝統的な酪農国から届く外国産のグラスフェッドバターは美味しいのですが、ただ多くのケースで、生産者の顔が見えにくいことがやや難点です。牛を育てる状況やバターを製造する様子を、消費者が自ら確認することは現実的に難しい状況です。


さらに、最近になって外国産製品の供給や価格に関して不透明感が出始めています。これには気候変動や労働問題、さらに外国為替相場が関係しています。


気候変動(熱波や渇水)による飼料価格の上昇、パンデミックを契機とした人件費の上昇、エネルギー価格の高騰に伴う輸送コストの上昇などにより、世界の乳製品価格は上昇傾向にあります。さらに日本経済の構造的な要因を背景とした円相場の下落が、食料の輸入価格の上昇を招いています。


このような状況を受けて、海外産のグラスフェッドバター(特に良質な製品)については、一段と値上がりする可能性が否定できません。したがって、円相場や海外要因の影響を受けにくい、国内産のグラスフェッドバターへの注目度は、今後ますます高まるのではないでしょうか。









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